水の環を人の環に私は、水文学(「みずぶんがく」ではなく「すいもんがく」と読む)と言って、循環する水と人間を含むあらゆる生物との係わりを知り、その係わり方を好ましい形にするための研究分野を専攻する者です。そんな立場から、「私のまちを流れる水」作文コンクールについての所感と期待を述べます。水の惑星・地球で水の存在の仕方のもっとも大きな特徴は、一部地中深く閉じ込められた化石水を除いて、液体(雨・地下水・河川水・海水など)、気体(水蒸気)、個体(雪・氷など)と相を変えながら絶えず循環していることです。同時に水の循環は、土砂や栄養塩や水質汚濁の原因となる有機物・無機物など、いろいろな物質の輸送をともなっています。らゆる生物が、生命を育まれ、生活・生産活動に欠かせない資源としての恵みを受けるいっぽう、時には厳しい災いを受けながら、そうした循環している過程の水と係わっているのです。①自然現象として時間的・空間的に偏って変動していること、②人間活動によって変化することが、人間と水との係わりを考える上で基本的に重要です。表面の要因、そして人間活動の要因に支配され、それぞれの要因が多くの要素によって構成されていそして、人間を含む地球上のあその循環の仕方の特徴として、水の循環は、大気の要因と地球ます。それら構成要素の複雑な相互関係を系統的に捉えようとする立場から、水循環系あるいは水循環システムという用語を使います。最も大規模で閉じた系をなすのが、地球規模の水循環で、その主な駆動力となっているのは、①太陽エネルギー、②水の相変化にともなう熱の放出と吸収、③地球の自転にともなう「コリオリ力」、④重力の作用です。そうした駆動力の下に、地球上の海洋や陸域と大気圏それぞれの多様な要素の相互作用により地球規模の水循環システムは構成されています。地球規模の水循環においても、氷河期・間氷期・温暖期といった地球歴史的な気候変動による変化やエルニーニョのような数年周期の自然的な海水面温度変動による変化に加えて、とくに二〇世紀以降の人間活動の飛躍的な拡大による地球温暖化による気候変動と人為的影響が大きな問題となっています。湿潤地帯にある日本において、人間と直接係わりが深いのは河川の流域を単位とした水循環です。埼玉平野をつくった利根川と荒川の流域に加えられたさまざまな人間活動については、「荒川流域を知るⅠ、Ⅱ:NPO法人・水のフォルム」に詳しく述べられていますので、ぜひ参照してください。ここでは主なものを概観します。大きな川に対して大規模な事業が行われるようになるのは、江戸を行政首都とする徳川幕府が開かれて以降です。江戸湾に流れていた利根川とその派川を締め切り、分水界となっていた台地を開削して銚子を河口として太平洋に流下させる一方、本川の開削部付近の台地を南方向に開削して太ふ日ひ川に繋ぐ派川・江戸川を新設します。これを利根川の東遷事業と言います。また同じ頃に、利根川の支流であった荒川を入間川筋に付け替える荒川の西遷事業が行われます。 東京大学名誉教授・福島大学名誉教授 虫明功臣と26
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