六〇年間をかけたこの大事業は、江戸を中心とする運輸交通体系の構築、農業用水開発と低湿地の排水改良による水田農業開発の発展などにより、二六〇年間の徳川幕府を支えるインフラ整備であったとともに、明治以降の関東平野、ひいてはは埼玉平野の発展の基盤になったと言えます。明治に入り、拡大した農村集落と水田農業が水害被害をたびたび受けるようになり、農村からの強い要望を受けて洪水対策を中心とする河川改修計画が立てられます。しかし、計画を超える洪水に見舞われて再度改定することの繰り返しで、第二次大戦時を迎えて一部を除いて進みませんでした。戦後の主な出来事と水施策の推移を以下に列記します。◦カスリン台風による未曽有の水害→治水計画に多目的ダムによる洪水調節を導入。高度経済成長期以降の首都圏への人口集中に伴う都市化と工業化による水不足、水環境の劣悪化、都市水害の激化。◦水不足への対応としての地下水過剰揚水→埼玉県南部から北東部にわたる地盤沈下の進行→ダム等水資源開発による表流水利用への転換。◦利根導水事業による荒川との再結合と北千葉導水事業による利根川の東遷戻し。◦環境の劣悪化→各種の施策と市民団体の改善活動。◦都市水害の激化→綾瀬川流域の草加市など→総合治水対策。れてきた課題に対して対処療法的に対応して、それなりの成果を上げてきました。う洪水災害の激甚化に対応するために、流域の関係者が一体となって連携・協働して行う「流域治水」が提唱されています。治めることは難しい、流域でのまちづくり/地域づくり、人の住まい方などを含めて豪雨被害が最小などなど、それぞれの時代で現そして今、近年の気候変動に伴巨大化する洪水は川の中だけでになるような治水政策への大転換です。これは、問題の本質を衝く適正なもので、これからのあるべき方向を示しています。しかし、これまで関係者の間で縦割り的に行われてきた諸課題への対応をどのように繋ぎ、連携の仕組みを創るのか、それがよく見えません。私は、平常時と非常時における水循環と人との係わりがどうあってほしいかについて、それぞれの地域、それぞれの立場から考え、お互いに水循環の視座からそれらを繋ぎ合わせること、それが連携の始めだと考えています。α(アルファ)世代が身近な水問題から出発して、巡る水と人との関係を実践的に理解するこの作文コンクールの取り組みは、「流域治水」の実現に繋がるものと期待しています。2010~2024年頃に生まれた世代を1980年代~1990年代中頃に生まれ※α世代(ジェネレーションα)は、指す言葉。1990年代中頃~2010年頃に生まれた「Z世代」に続く世代として、オーストラリアのマーク・マクリンドル氏が命名したとされています。世代の名称として「α」というギリシャ文字を用いているのは、前世代の「Z」でアルファベットが終わり、それに続く新たな局面を表現するためだと考えられます。マクリンドル氏によれば、α世代はたY世代(ミレニアル世代)の子世代にあたり、「Z世代の弟分」として位置づけられています。※27
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