水は流れている、つながっている1
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身近な水から地球の未来へ「くるる調査隊」のみなさん、素敵な作文を読ませていただき、誠にありがとうございます。みなさんの文章から、たくさんのことを学ばせていただきました。みなさんの調査は、どれも日常の暮らしのなかのちょっとした疑問から始まります。「井戸の水をみたとき」「ベランダのトマトに水をあげているとき」「お風呂や水道の水を使うとき」「野球の練習の時に水を飲むとき」。そして、水の流れを追った調査を行い、その疑問が、遠く離れた奥秩父の甲武信ヶ岳や大久保浄水場とつながり、江戸時代の用水づくりを考えることであり、海の上の雲と地底奥深くの粘土層を学ぶことだと気づかせてくれます。多くの人に出会い、水の循環がさまざまな人に支えられていることを教えてくれます。います。豊かな自然環境は豊かな人の暮らしがなければ続きません。豊かな人の暮らしも豊かな自然環境の中でしか成り立ちません。る水の流れは、遠く離れた場所をつなぎ、私たちの毎日の暮らしと地球をつなぎ、過去と今と未来をつなぎ、人と人の想いをつなぎとめるものです。こんなにも素敵で「大切なこと」に気づかせてくださり、大変感謝しております。また、みなさんは、調査の中で自然と社会は密接につながってみなさんの文章が伝えてくださ私はいま、大学で都市計画やまちづくりを研究しています。いろいろな都市やそこでの人々の暮らしをみてみると、現代の大都市に住む多くの人々が、みなさんが教えてくれる「大切なこと」を忘れてしまっていると感じることが少なくありません。いま私たちが住む都市は、まるで地球環境の制約からすべて解放されたかのように振舞っています。私たちは、どこにいても、クーラーの効いた部屋でハンバーガーを食べて、パソコンに向かって仕事をすることができてしまいます。蛇口をひねれば水が出るのは当たり前のことで、それを出しっぱなしにしてしまうこともあります。雨が降って文句を言うことがあっても、感謝することはほとんどありません。しかしながら、現代の都市は地球環境の制約から完全に逃れられたわけではありません。今、地球環境は危機的な状況にあります。気温は年々上がっており、大規模な災害が増えています。このまま放っておくと、私たちはこの地球で暮らすことができなくなるかもしれません。そして、この先どんなに時代が進んだとしても、人間が地球にある生態系の一端を担う生き物であることにも変わりはありません。人間の体の四分の三は水でできており、水とのつながりから逃げることができません。だからこそ今一度、水の流れがつなぎとめる私たちの都市での「暮らし」を振り返ることが、喫緊の課題なのです。「暮らす」ということは、決して、働くことや寝ることだけを意味するわけではありません。「暮らす」ことは生態系の一員としての役割を全うすることでもあります。これから私たちは、より能動的に土地に働きかけなければなりません。水がゆっくりと流れ浸み込むことを手助けしなければなりません。また、そのために必要な文化を引き継いでいかなければなり    東京工業大学環境・社会理工学院                 坂村准教授28圭

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